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対談 | CHART project

八王子の豊かな自然や歴史をアートに
アートで地域の未来を創る
「八王子芸術祭」とは

chart project × 八王子芸術祭

 

八王子の豊かな自然や歴史をアートに

アートで地域の未来を創る「八王子芸術祭」とは

 

「八王子芸術祭」は2023年秋から10年をかけて八王子の5つのフィールドをめぐる芸術祭です。フィールドの特色を活かしたテーマのもと、さまざまなイベントが行われます。多様なアーティストによって生まれるアート作品には、八王子の豊かな自然や歴史、暮らしが含まれ、時間をかけて新たな八王子の未来を創り出すことが期待されています。

chart projectも、芸術祭を盛り上げるサポート役として参加し、ワークショップを行いました。八王子芸術祭を企画・運営する(公財)八王子市学園都市文化ふれあい財団の米倉楽さん、米倉かおりさんと、アートと地域について、考えました。

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左から、八王子市学園都市文化ふれあい財団 米倉楽さん、米倉かおりさん、クリエイティブワークを担当したchart project®︎メンバーでtegusu Inc.デザイナーの藤田。

 

プロフィール

米倉楽さん

(公財)八王子市学園都市文化ふれあい財団 芸術文化担当振興課 課長

八王子芸術祭 プロデューサー

 

米倉かおりさん

(公財)八王子市学園都市文化ふれあい財団 芸術文化振興課  

第1期 八王子芸術祭 企画ディレクター

 

 

「八王子市の地域別緑被率」からアートが誕生

ショッピングセンターや学校でchart project®︎ワークショップ

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chart project担当 藤田雅臣(以下、藤田):2023年の八王子芸術祭は「自然に潜む美しさを探る旅」をテーマに、高尾・恩方地区で開催され、chart projectも参加させていただきました。2023年3月にイーアス高尾で行ったリリースイベントを皮切りに、多摩美術大学や八王子市立浅川小学校でのワークショップを行いましたが、率直にいかがでしたか。

 

(公財)八王子市学園都市文化ふれあい財団 芸術文化振興課 米倉かおりさん(以下、かおり):どれもすごくおもしろかったですよね。ワークショップの参加者には「八王子市の地域別緑被率」をテーマに、思い思いの作品を作っていただきました。多摩美術大学でのワークショップでは、制作時間中に緑被率のグラフをじっと見つめて動かなかった学生が、終盤で目を見張るような提案をして、一気に形になったり。グラフを解釈するプロセス自体がアーティスティックで、それを感じられたのがすごくおもしろかったです。

 

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今回は、緑被率という善悪の判断が混じらないグラフを選んだことでおもしろさが生まれたと思います。緑を増やしていきたいと捉えてアートに反映する人もいれば、客観的に捉えた作品を作る人もいましたから。

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藤田:今回はなぜ八王子の緑被率をテーマにしたのですか?

 

かおり:一つは、高尾・恩方地区の芸術祭のテーマが自然だったからです。また、社会課題の中にはセンシティブなテーマもあるので、今回は人によっていろんな捉え方ができるグラフをあえて選びました。

 

(公財)八王子市学園都市文化ふれあい財団 芸術文化担当部長 米倉楽さん(以下、米倉):緑が多い地域には、山林管理の難しさや獣害といった課題もあります。緑被率というデータの裏にあるそういった課題は、芸術祭の他のアートプロジェクトで扱ったので、chart projectさんとのつながりが生まれてよかったのではないかなと思っています。

 

藤田:chart projectでは、「こうであってほしい未来を描こう」という意識を持って作品に表現しているのですが、必ずしもポジティブでない未来もある点で難しさを感じていました。
ただ今回は、いろんな捉え方ができるグラフがテーマに選ばれたことで、参加者によって100通りの答えが出ました。chart projectの新しいステージが見えた気がしています。しかも、小学生や美大生からのアウトプットでしたので、個人的にも新たな発見がたくさんありました。

 

かおり:小学生のワークショップで生まれた作品もかわいかったですね。

 

藤田:僕らとしても新しい試みだったのですが、木材をいくつかのサイズに切って並べ、緑被率のグラフの高さを表現しました。その木材を小学生の皆さんに装飾してもらったのです。

一般的にお子さん向けのワークショップだと、作ることに一生懸命になってしまって、グラフが示す内容を意識しづらい傾向があります。ですが、今回は手を動かして、木の香りを嗅ぎながら、感覚で感じ取ってもらえたのではないかなと思っています。

 

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かおり:難しいことは言わずに、体感できるのがいいなと思いました。いつも見るグラフは平面ですが、立体になると体感しやすくなりますね。それも、高尾の本物の間伐材を使ったので、一層わかりやすかったのかなと。

 

米倉:間伐材の「曲がり」なんて、人ではコントロールできないものですよね。人がデザインする部分と、デザインではできない部分のコラボレーションという魅力もあったと思います。

 

 

八王子芸術祭は2年ごとに地域を巡回

街が変われば、アートの素材も変わるおもしろさ

 

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藤田:そもそもchart projectをどのようにして知ってくださったのですか?

 

かおり:芸術祭ではない別の企画を検討していた時に、「SDGs アート」で検索してchart projectさんを知りました。残念ながら当時の企画では実現しなかったのですが、八王子芸術祭を行うことになり、問い合わせさせていただきました。

 

藤田:今、「SDGs×アート」の取り組みを、いろんな自治体の方が必要としています。私たちとしてはSDGsに限定するつもりはないのですが、SDGsをきっかけに関心を持っていただけるのはありがたいです。chart projectのどういうところに魅力を感じてくださったのでしょうか?

 

かおり:私自身はこうしてアートを普及する仕事をしていますが、どちらかというと「アートが何に役立つか」「アートを使って何ができるか」に興味がありました。ですので、chart projectさんの考えに共感したのです。アートが様々な分野をつなぐ「横ぐし」になるためのきっかけとして、魅力的なプロジェクトだなと思いました。

 

藤田:ありがとうございます。そのように感じていただいてうれしいです。八王子芸術祭はどのようにして始まったのですか?

 

米倉:八王子市では、2008年から12年間に渡って「八王子音楽祭」を開催しました。ただ、八王子は広いため、音楽祭に参加しない市民がたくさんいると感じていました。音楽に関心がない方もいれば、地域的に参加しづらい方もいますよね。ですから音楽に絞るのではなく「芸術祭」と間口を広くし、さらに、市街地で来場を待つのではなく芸術祭が各地域を巡回しようと考えたのです。各地域の方々とコミュニケーションを取って地域のことを知り、一緒に芸術祭を作り上げていこうとしています。

 

かおり:八王子と一口に言っても、街ごとにアイデンティティがあって、誇りに思っているものも違いがあります。ある地域に行くと「これをテーマにしたい!」とはっきりわかるくらいに、特色があるのです。2年ごとに芸術祭が地域を巡回していくと、特色がだんだん見えてきておもしろいのではないかなと思っています。

 

米倉:私たち企画者が一番贅沢なんですよ。一番最初に地域に行って、地域の方と仲良くなって企画を考えるのですから。実は、高尾・恩方地区での芸術祭をやっている途中から、「10年後に高尾・恩方に芸術祭が戻ってきたとき、こういうことやりたい」と楽しみに考えてしまいました。実際、芸術・文化とは、それくらいの長いスパンで考えるものだと思います。ただ、同じ地域で10年後まで芸術祭がないことのデメリットもありますから、芸術祭が次の地域に移った時にも、前の地域を忘れない工夫をしていきたいと思っています。

 

藤田:エリアとしては、2022~2023年は高尾・恩方地区、2024~2025年は、北八王子・中野上町地区ですね。

 

米倉:北八王子は工業団地がある地域です。医療機器メーカーなど世界的シェアを占める会社や、小規模でも世界に誇るダントツの技術を持つ会社がひしめきあっています。中野上町は、八王子で伝統的に盛んである織物や染物の工場がたくさんある地域です。自然豊かな高尾とはまた違ったイメージですね。

 

かおり:地域が変われば扱う素材も変わるので、アートとしておもしろいのではないでしょうか。

 

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藤田:おもしろそうですね。2年ごとに地域を巡回し、アートを通じて地域の魅力を再発見していくことになりますね。それぞれの地域に詳しい方に話を聞きながら一緒に計画を立てるのは、楽しいだろうなと。

 

米倉:芸術祭も企画する私たちも旅している感じですね。今まさに、次の地域のリサーチでいろんな方の話を聞いているところです。アートジャーニーとでも言いましょうか、地域をつなげる横軸を作り、らせん階段を上っていくようなイメージで、10年間の芸術祭をやっていけたらと思います。

 

 

アートは人をつなぎ、地域をよりよくする

八王子の未来にアートができること

 

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かおり:これはただの妄想なのですが、今回小学生と作った立体のグラフをさらに発展させて、グラフを体感できる空間を作ったらおもしろいのではないですか。部屋を丸ごとグラフを体感できる空間にして。

 

米倉:chart projectさんは「紙が好き」とおっしゃっていたから、電子コントロールされたものではなくて、でも相互交流できるような……。想像が膨らみますね。

 

かおり:今回、chart projectさんにお願いしたことで、市役所の他部署と協力関係を築けたのもうれしかったです。ワークショップでは環境保全課に緑被率の説明をしてもらいましたが、実は普段の接点は少ないのです。アートを通じてやり取りし、お互いが持つ情報を活かして相乗効果が生まれましたので、よかったと思います。

 

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米倉:その可能性は感じましたね。次の芸術祭でも、アートを通じて他部署とどれだけ連携できるかを目標にしているのですが、今回実現できましたので、ちょっとした成功体験になりました。

 

藤田:それはうれしいです。他部署の方は、実際に社会課題に取り組んでいたり、グラフのデータを持っていたりすると思います。そういった方々にグラフがアートになるのを見ていただいて、なにか化学反応が生まれるとよいなと思います。

 

かおり:今回は緑被率をテーマにしてよかったと思っているのですが、もっと直接的に社会課題につながるテーマを選んでもおもしろいかもしれません。明らかに「変えていかなきゃ」と皆さんが思うようなことにフィーチャーできたら、ワークショップをきっかけに一緒に考えるムーブメントが生まれないかなという期待があります。

 

藤田:テーマ設定は難しいですが、とても大事な過程だと思います。僕らとしてもあれだけの大人数に向けてワークショップをやるのは初めてでした。それに、パッケージ化されたワークショップではなく、初めての試みにチャレンジできる実験の場を持てたことがありがたかったです。八王子芸術祭に参加したことで、chart projectとしても進化できたのではないかなと思っています。ありがとうございました。

 

撮影:堀篭 宏幸 編集:近藤 圭子

 

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