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対談 | CHART project

渋谷駅前に環境広告を掲出
固いイメージの社会課題を
柔らかく表現して注目を集める

こくぼ ひろし × 藤田 雅臣

地球温暖化対策として2030年に向けた温室効果ガスの排出量削減を目標に、ひとりひとりができる「賢い選択」を提案する国民運動「COOL CHOICE」。環境省と地方公共団体連携事業の一環として、東京都渋谷区が主催する啓発イベントやセッションのプロモーション、メディア戦略をchart projectメンバーのこくぼが代表を務めるひとしずく株式会社が担うことに。中でも、渋谷駅前ハチ公広場に区民憲章ボードとして掲出した大型広告制作は、貴重な経験となりました。広告デザインを担当したデザインスタジオ・tegusuの代表でもあるchart projectメンバーの藤田とともに、取り組みを振り返りました。

 

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渋谷駅前に環境問題を啓発する大型広告を掲出

“クールな選択をする未来の人々”を描く

 

こくぼひろし(以下、こくぼ): このプロジェクトは、渋谷区から「国が推し進めるCOOL CHOICE事業を渋谷区としても伝えていきたい」というご相談をいただき、始まりました。関連イベントを開催して啓発するほか、広告を制作して渋谷駅前の大看板に掲出することに。私自身、これまで大型広告を制作したしたことがなく、どのように進めるべきか悩みました。COOL CHOICE事業について分かりやすく伝えるためには、やはり社会課題をしっかり訴求することが大事。そのためには、chart projectとコラボレーションするといいのではないかという結論に至り、広告デザインをchart projectのメンバーでもある藤田さんにお願いしました。
藤田さんは、最初にこの話をお聞きになったとき、どのように思われましたか?

 

藤田雅臣(以下、藤田): まず広告サイズが幅13.17メートル、高さ2.9メートルとかなり大きく、弊社でもこの規模の広告は制作したことがなかったので、物理的な大きさに対してしっかりディレクションできるかという不安はややありましたね。
また、テーマが公共のものなので、どのようなトーンで伝えるかが難しいなと感じました。 

 

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chart project 藤田雅臣

 

こくぼ: 実生活においてイメージしづらい社会課題を広告でどのように表現するのかという点については、葛藤があったと思います。chart projectで表現する方向性に決まり、作品を作るchartist(チャーティスト)として、イラストレーターの川添むつみさんにイラストを描いていただくことになりました。藤田さんが川添さんにお願いしたいと考えた理由を教えていただけますか?

 

藤田: 川添さんとは以前から交流があり、インスタグラムに投稿されているイラストも好きで、いつかお仕事をご一緒したいと思っていました。シンプルな対象物の描き方とファンタジックな世界観が共存していて、“クールな選択をする未来の渋谷の街”という今回の広告コンセプトをうまく表現していただけるのではないかと考えてご提案しました。
また、川添さんの作品からはデザイン的な構図や視点を感じており、イラストレーターとして経験も豊富な方なので、広告全体をまとめていく上でもスムーズにコミュニケーションいただけるだろうと考えました。若者が多い渋谷という街に掲出する広告なので、ポップでキャッチーな絵を描けることもポイントでした。

 

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chart project こくぼ ひろし 

 

こくぼ: 渋谷駅前という立地で、タレントさんが起用されたものなど華々しい広告が多い中、一般の方にとって自分の生活とは遠いところにあるように感じられる、でも実は身近な社会課題を自然に伝えられたのではないかと思います。
川添さんと一緒に広告を制作していく中で、いちばん大変だったことは何でしたか?

 

藤田: 「進もう、COOL CHOICEな渋谷へ。」というキャッチコピーとともに街の人々を描く広告全体のデザインはスムーズに決まりましたが、その中にチャート(グラフデータ)をどのようにイラストの中に取り入れるかという点については、悩みましたね。結果的にはイメージの方向性だけを伝えて、川添さんにアイデアもおまかせする形になりました。

 

こくぼ: 広告をchart projectの手法で描くにあたり、渋谷区からご要望があった「フードロスの削減」「有機農業やみどりの推進」「再エネ導入と省エネの推進」という3つのテーマにおける現状の課題を表したグラフデータを選定しました。
ただ、私自身はクリエイターではないので、課題が解決されていく様子をどのように表現するかまでは想像できていなかったのですが、川添さんに自由な発想で描いていただいたイラスト案を見たときに、アーティストが打ち出すアイディアのすごさ、一瞬で伝えることができるアートの力というものを改めて感じました。「ぜひこれで!」と、何も手を加えることなくお願いしましたよね。
あのとき、chart projectとは、「こちらが内容を決めて依頼するものではなく、chartistの多彩な表現力とコラボレーションして完成するものなのだ」と、わかったのです。

 

  

 

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イラストの中の円グラフは、あえてアウトラインを描かず、自然に表現。全体的なデザインは、COOL CHOICEのテーマカラーの青やロゴに使用されている矢印を象徴的に用いて、渋谷の街の人々がCOOL CHOICEな取り組みをしている様子を明るい色彩でまとめあげた。

 

藤田: それを聞いたら川添さんも喜ばれると思います。私自身、仕事を通じて社会課題について改めて知ることが多く、chart projectは、まさにそのいい例ですね。今回の広告で表現した社会課題についても、有機農業の農地の面積が少ないことなど、知らなかったことがありました。
イラストを描き、広告をデザインすることで初めて知識として覚え、課題として意識することができ、作り手にとっても素晴らしいプロジェクトだと思います。

 

こくぼ: そのように感じていただけて、とてもうれしいです。chart projectを見た人が、「気になっていた」「知っていたけれど、きっかけがなくて動けなかった」など、潜在意識を引き出せる機会になればいいなと思います。
再生エネルギーのイラストに関しては、川添さんから「何を描けばいいか分からないので、街にあるモチーフを教えてほしい」というご相談をいただきましたよね。そこで、渋谷区に確認をとり、屋上農園やソーラーシステムについてお伝えしたことも。川添さんご自身もよく調べてくださり、その中で我々が発見したこともありました。
chart projectに関わった人々が積極的にリサーチし、グラフの数字だけではなく、社会課題の背景や解決策を話し合っていく原型ができたように思います。

 

藤田: 考える過程が大事ですよね。「何が再生可能エネルギーなのか?」とか「どのようなことが省エネルギーにつながるのか?」とか、社会課題の解決策について考えながら、よい方向に動いた未来を描いていくプロセスも醍醐味だと思います。

 

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広告は、2018年1月16日から約2週間、ハチ公前広場に掲出。街を行き交う人々の注目を集めた

 

こくぼ: 広告が実際に掲出された様子を見た第一印象はいかがでしたか?

 

藤田: やはり大きいなと。これだけ目立ち、渋谷の街の風景のひとつになった広告を手がけられて、貴重な経験ができました。

 

こくぼ: 私も、遠くから広告を見ていた人が近くに寄っていったり、指をさして話したりする姿を目にしたときは、人々に何かを届けられた気がして、とてもうれしかったですね。実は、生まれたての子供を見るような気持ちで、何度も現地に足を運んでいました。
渋谷駅はテレビ中継で映されることも多く、「天気予報の背景に映っていたのを見た」という連絡をいただいたことも。

 

藤田: 川添さんのイラストレーター仲間も、「イラストレーターにとっても、イラストが街でここまで大きく使われるのは、栄誉ある仕事だと思う」と、盛り上がっていましたね。

 

こくぼ: その点は、chart projectとしても大事にしたいと考えています。川添さんはSNSでも積極的にシェアしてくださって。やはり創作をしたchartistが誇りに感じて自ら発信することで、社会課題が周囲に少しずつ伝わっていくのではないかと思います。関わった人が自発的に伝えていくことが理想形だったので、まさにそれが実現できた手応えがありますね。渋谷区、デザインをしてくださった藤田さん、イラストを描いてくださった川添さん、chart projectのメンバー、関わった人々がハッピーな気持ちを味わえたと思います。

 

藤田: そうですね。皆で作り上げた実感のある広告でしたね。

 

 

 

広告幕を再利用して、世界にひとつだけのバッグの製作にチャレンジ

 

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広告掲出期間終了後、軽量かつ防水加工が施されて丈夫な広告幕の生地を活かし、「横浜頒布鞄」とコラボレーションしたバッグとして製品化。イベントで展示や販売をした

 

こくぼ: 通常、掲出後の広告は、廃棄するケースが多いそうです。ただ、今回はそもそも環境問題について啓発していること、またchart projectとしても作品をゴミにしてしまうことは根本的に違うのではないかという想いがあり、広告を撤去する日に回収し、バッグとして再生させることにしました。

 

藤田: 最初に伺ったとき、とても素晴らしいアイディアだと思いました。これまで広告をリユースするような事例はあったのですか?

 

こくぼ: 渋谷区が広告主の広告としては、今回がおそらく初めてだそうです。

 

藤田: それは先進的な取り組みですね。これからは広告も可能なものは再利用できる流れになったら、いいですよね。

 

こくぼ: 広告を撤去してくださった施工業者さんも、「持って帰るのですか?」と驚かれていました。リユースしてバッグを作ることをお話したら、共感してくださって。その後バッグを販売したイベントにも来てくださり、製品をお渡しできました。

 

藤田: そんな後日談があったのですね! このような取り組みに興味がある方に施工してもらえたことも何かご縁を感じますね。

 

こくぼ: 皆さんがポジティブに関心をもってくださるという、chart projectのパワーを感じましたね。
バッグの製作は、ひとしずくやtegusuさんの拠点である横浜のユー・エス・エム株式会社の鈴木さんにぜひお願いしようということになりました。工房にも一緒に行きましたがいかがでしたか?

 

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藤田: すごくうれしくて、テンションが上がりました。鈴木さんは、広告幕でバッグを製作するのは初めてだったそうですね。

 

こくぼ: 鈴木さんはもともと、環境問題に対する意識も高い方で、オファーも快く受けてくださいました。それに、とにかく完成したバッグがかっこいい。広告の図柄の切り取り方にもこだわってくださいました。

 

藤田: クラウドファンディングでchart projectを立ち上げた当初、こくぼさんが「チャートを持ち歩く」というお話をされていて、どういうことだろう?と思っていたのですが、バッグを目の前にしたときにつながりましたね。

 

こくぼ: 最終的に1枚の広告幕から47個のバッグを製作しましたが、広告がいかに大きいサイズだったかがわかります。そして、現在それだけの大きさの広告がたくさん捨てられているという事実も。
だからこそ、chart projectは、今後さらに環境問題について伝えていきたいと考えています。作品の紙や塗料、フレームなど使用する素材や制作の過程におけるサステナビリティに関しては、もっと改善できると気づきました。
普段、私もこのバッグを使っていると、周囲の人からバッグについて聞かれ、その流れでchart projectや社会課題についての話になることもあります。

 

藤田: バッグを何気なく持っている中から会話が生まれて、社会課題を伝える媒体となっているのですね。

 

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広告の最終形態として完成したバッグをお渡しするため、長谷部 健渋谷区長を表敬訪問。区長からも、chart projectについて「面白い取り組み」と賛同をいただいた

 

  

chart projectによって、自分ゴトとして社会課題に向き合う人を増やしたい

 

 

こくぼ: 渋谷区と話し合いを重ねる中で、「行政が取り組まなければならない社会課題は、山程ある」という話になりましたが、chart projectが大事にしたいことは、“社会課題と自分との接点”です。社会課題は、行政だけの課題ではなく、社会に生きる全員の課題なので。どれだけ接点を生み出せるかが、chart projectに期待される役割なのではないかと考えています。

 

藤田: 堅いイメージがある社会課題を柔らかい表現に落とし込んで、上手く伝えられたらいいですね。
今回のCOOL CHOICE事業は、chart projectとして効果的にコラボレーションできたのではないでしょうか。渋谷区らしく、クールな広告、そしてファッショナブルなバッグによって、社会課題を伝えられたと思います。

 

こくぼ: chart projectは、今後もっとたくさんの方にchartistとなっていただき、さまざまなアイディアを引き出していきたいと考えています。
日本を始め、世界各地でコラボレーションしていく予定ですので、これからもよろしくお願いします。

 

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写真左から、tegusuの藤田、ひとしずくのこくぼ ともにchart project創設メンバー

 

協力:渋谷区役所 環境保全課(2017年7月〜2018年2月)

撮影:堀篭 宏幸 編集:よしだ あきこ

 

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